ウェルビーイング(well-being)という言葉をご存知でしょうか。
昨今では幸福の概念が多面的・複雑化してきており、それに合わせた新しい幸福の指標と言えます。
こちらではウェルビーイングとは何か、どのような意味なのか、ウェルビーイングとヘルスケアとの違い、ウェルビーイングの構成する要素の理論、従来の幸福理論との違いに関して基礎知識をわかりやすく解説しております。
今後ビジネスシーンで活用される機会が増えてきますので、是非ご覧ください。
ウェルビーイングとは|意味と定義
ウェルビーイングの意味と定義
●ウェルビーイングとは
ウェルビーイング(well-being)という言葉を、最近よく耳にすることが増えました。
そもそもウェルビーイングとは、どのような内容でしょうか。
ウェルビーイング(well-being)とは、心身共に良好な状態を意味する概念になります。
概念と言われると抽象的で分かりづらいかもしれませんが、ウェルビーイングは英語で「幸福な状態」「健康な状態」と訳されています。幅広く「幸福」「健康」な状態である意味する言葉です。
●ウェルビーイングの定義とWHO
ウェルビーイングの由来や注目されている理由は、WHO(世界保健機関)が関係しております。
世界保健機関(World Health Organization: WHO)が「健康」に関して、1964年に「世界保健機関憲章」の前文において、以下のような定義をしたことが始まりになります。
「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。」
(日本WHO協会仮訳)
引用元:世界保健機関憲章前文 (日本WHO協会仮訳)
こちらのWHOの憲章から、ウェルビーイングは身体的な健康だけではなく、精神的にも社会生活的にも継続的に良好な状態が重要であるということで、注目を集めるようになりました。
ウェルビーイングの概念が浸透する前には、「病気やケガない状態=健康」という概念が一般的でした。昭和時代では、疾病予防や公衆衛生がメインとなっており、健康に気を付けてと言われると手洗いうがいや予防接種の呼びかけなど、病気にならない対策のみだったかと思います。
もちろん現代においても、衛生管理や疾病予防は重要で外せない概念ですが、昨今においては健康の概念を肉体的以外にも広げていく傾向となってきております。
なぜ肉体的健康以外の要素にも目を向けられるようになった理由は、精神的な健康や社会とのつながりによる幸福や安心感が、健康に影響を及ぼすということが分かってきたからです。
健康の概念は定義されていなくても、時代に合わせて更新されており、一人の人間としての健康は目に見えない多くの部分に影響を受けていることがわかります。
ウェルビーイングとヘルスケアとの違い
ウェルビーイングと近い言葉にヘルスケアという言葉があります。
ウェルビーイングとヘルスケアとの違いは何でしょうか。
ヘルスケアは公共財団法人日本ヘルスケア協会で以下の通り定義されております。
ヘルスケアの定義(簡略版)
「ヘルスケアとは、自らの『生きる力』を引き上げ、病気や心身の不調からの『自由』を実現するために、各産業が横断的にその実現に向け支援し、新しい価値を創造すること、またはそのための諸活動をいう」
引用元:公共財団法人日本ヘルスケア協会
ヘルスケアもウェルビーイング同様に肉体的にも精神的な部分に目を向けられていますが、ヘルスケアは心身の不調からの回復、健康状態を良好な状態に引き上げる手伝いをする意味合いの違いがあります。
ウェルビーイングは、良好な状態そのものを指す言葉となっております。
またもう一つウェルフェア(welfare)という似た言葉があります。
ウェルフェアとは「福祉」「幸福」という意味に言葉になります。
ウェルフェアは、公的扶助やサービスによる生活の安定・充足という手段としての意味あいがあります。社会的な健康の意味が強いと考えられます。
ウェルビーイングはヘルスケアやウェルフェアよりも広い範囲を指す健康の定義となっております。
ウェルビーイングの背景と理論
ウェルビーイングの背景
ウェルビーイングが注目された理由には、どのような背景が隠されているのでしょうか。
① 価値観の変革
過去の日本では欲しい車や趣味の道具など、「モノ」を手に入れて幸せを感じる傾向がありました。しかし、現在では「モノ」は手に入りやすくなり、「モノ」で幸福を感じることは難しくなってきています。
そこで「モノ」という物質的な豊かさではなく、心の豊かさに「幸福」の価値観が移ってきています。
健康であることに心の豊かさという精神的な内容が加えられたのは、価値観の変革が理由の一つとしてあげられます。
② 働き方改革
少子高齢化による人材不足防止のための人材確保、一方ブラック企業が問題視される中での人材の流出防止の一環として働き方改革や労働環境改善に取り組む企業が増えてきています。
こちらは2018年7月6日に「働き方改革関連法」(「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)」)という法律ができたことにより、一人ひとりが多様な働き方が選択でき、より良い未来の展望を持てることを進めていきます。
働き方が多様化したことにより、選択肢が増えて自身の幸福について考える機会ができたことが影響しているかもしれません。
③ 健康経営
健康経営は経済産業省が定め、企業による環境整備を進める内容です。
「健康経営」とは(経済産業省)
従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。
企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。
こちらも一人一人の心身共に健康であることを企業側の視点として注目されるきっかけとなっております。
④ 感染症拡大により健康意識の高まり
感染症拡大に伴いリモートワークが普及し、働き方を見直す機会になった人がおり、働きがいなどの精神的な健康にも目を向けられることとなりました。またリモートワークはコミュニケーション不足という課題も生まれ、その環境下でどのように健康を保つかも注目されています。
ウェルビーイングの理論①
ではウェルビーイングはどのような理論で考えられているのでしょうか。
●幸福理論
従来の幸福理論では、幸福という部分に目を向けられており、人生の満足度という尺度がメインとなっておりました。人生の幸せを最大化することが目標となっております。
一般的に三大幸福論と呼ばれる幸福についての本が出版されています。
・ヒルティ『幸福論』(1891年)
・アラン『幸福論』(1925年)
・ラッセル『幸福論』(1930年)
ヒルティの『幸福論』では、幸福になるには仕事をちゃんとしなければならない、また仕事をするには勉強をして、行動しなければいけないと説いています。
アランの『幸福論』では、幸福になるには「幸福になるぞ!」という意志をもって自分をコントロールする必要があると説いています。
ラッセルの『幸福論』では。自分の内側にばかり目を向けるのではなく、客観的に生きてこそ幸せになれると説いております。
このような従来の幸福論の「幸福」や「幸せ」はポジティブな感情がテーマになっておりますが、幸福はポジティブな感情のみでないことで、ウェルビーイングの概念が生まれました。
ウェルビーイングの理論②
●ウェルビーイング理論(マーティン・セリグマン)
米・ペンシルベニア大学心理学部教授のマーティン・セリグマン博士らによって「ポジティブ心理学」の分野でウェルビーイングは研究されてきました。
ポジティブ心理学とは、「人が幸せに生きること」を科学的に追求する学問です。
従来の幸福理論の単調な尺度を疑問視し、人生の幸福において多面的な尺度・評価を設けることで、正確な人生の満足度を図ろうとしました。
セリグマン博士はウェルビーイングを高める5つの要素のPERMA理論を提唱し、ポジティブな感情だけではない多面的な要素を定義しました。
PERMA理論とは以下の5つの要素の頭文字をとったものです。
・P=Positive Emotionポジティブな感情
・E=Engagement エンゲージメント
・R=Relationships 人間関係
・M=Meaning 意味
・A=Achievement 達成感
この5つの要素を高めていくことでウェルビーイングが高まり、人々は本質的な動機づけを得ることができると知られています。
ウェルビーイングの理論③
●ウェルビーイング理論(タル・ベン・シャハー博士)
心理学者のタル・ベン・シャハー博士もウェルビーイングを含むポジティブ心理学の研究者です。ウェルビーイングをより具体的に高める基準として、SPIRE(スパイア)という指標を掲げています。これら5つの要素の頭文字をとったものがSPIRE(スパイア)です。
・Spiritual Well-Being 精神のウェルビーイング
・Physical Well-Being 身体のウェルビーイング
・Intellectual Well-Being 知性のウェルビーイング
・Relational Well-Being 人間関係のウェルビーイング
・Emotional Well-Being 感情のウェルビーイング
PERMA理論とSPIREの2つの理論が存在しておりますが、ともにポジティブな感情以外の要素をバランスよく抽出しており、ウェルビーイングを高める基準として共通しております。
【まとめ】ウェルビーイングの目標とこれから
ウェルビーイングという言葉は、あくまで良好な状態を示す概念的な言葉な為、
明確な指標や数値目標も存在しません。しかしウェルビーイングの測定する新しい指標の研究などは進められております。
今後日本国内や企業においては目標の基準となりえるのがSDGsになります。
項目3番の「GOOD HEALTH AND WELL BEING(すべての人に健康と福祉を)」、
項目8番の「DECENT WORK AND ECONOMIC GROWTH(働きがいも経済成長も)」を達成するにあたっても、今後国内において具体的な対策基準が出てくるかもしれません。
またウェルビーイングへの取り組みは、働くことへの満足度向上だけではなく、生産性の向上も見込めることから、ビジネスシーンで大きな関心が寄せられております。
各企業独自の取り組みが進められてきており、今後さらなる発展が見込まれております。
10年間続けたスポーツのメンタル・スポーツ心理学の経験を活かして、会社・企業が取り組めるメンタル強化に関する情報発信を行っております。