葉菜類のチップバーンの原因と対策 ―植物工場のトラブル事例―

植物工場で葉菜類を栽培していると、チップバーンと呼ばれる、葉の先端が焼け焦げたような現象が発生することがあります。
今回はそのチップバーンの原因・メカニズムと対策についてまとめました。
植物工場で生じるチップバーンのリスクも踏まえ、是非ご確認ください。

   

野菜の葉の先端が焦げる?

チップバーンとは

完全閉鎖型植物工場で葉菜類を栽培したときに、
葉の先端が黒く、焦げたような症状がでる場合があります。
黒く褐変し、枯死した状態なので商品としての価値に悪影響を与えます。
特に植物工場の野菜は虫食いもなく、きれいで高品質なものが生産できる施設なので
チップバーンへが発生することは、工場の運営者としてもとても悩ましいものだと思います。

チップバーンによって引き起こされる影響

チップバーンは多方面で様々な影響があります。
・チップバーンが進行してしまうと枯れてしまう可能性があり、収穫量の減少の原因となる
・生育不良が生じてしまい収穫物のサイズが小さくなる恐れ
・収穫物に焦げたような黒い部分が生じてしまい葉物や果実の見栄えが落ちてしまう

このように手間暇かけて育てた収穫物が見た目やサイズによって製品価値が落ちてしまい、価格へ影響してしまう可能性があります。また植物工場は虫がいない環境で見栄えのよい収穫物且つ、安定的な供給を求められる場合が大変多いです。チップバーンは植物工場では大きな悪影響を与えてしまうことも考えれられます。

チップバーンの原因とメカニズム

チップバーン発生の原因

チップバーンの発生には複数の要素がかかわっており、工場によって原因が異なるため一概に言えませんが
今回は、よくあるケースについてまとめたいと思います。

一般的にチップバーンと呼ばれていますが、学術名称は「カルシウム欠乏症」です。この名称が表している通り、
チップバーンが発生する直接の原因はカルシウム分の不足だと考えられています。


野菜に供給する肥料のなかにカルシウム分が少なければ当然カルシウム欠乏症が発生しますが
供給される肥料成分としてカルシウムが不足している事例はほとんどありません。
それではなぜカルシウム欠乏が発生するのでしょうか。
なんらかの理由で、カルシウムが野菜にうまく吸収されていないことになります。

カルシウムが野菜に吸収される機構を考えてみます。
カルシウム分は水分と同じように根から吸収されます。
水分の吸収が早ければカルシウムも多く供給され、水分の吸収が遅くなれば、カルシウムの供給も少なくなります。
ここで一つめのチップバーンの原因としては、根が何らかの原因により傷つき、水分・カルシウムをうまく吸収することができず、カルシウムが欠乏した状態になることが考えられます。
水分が多すぎることによる根腐れや、根の発育不足等が考えられます。

根から水分が吸収される速度は蒸散速度の影響を受けます。
蒸散とは葉の気孔から水分が水蒸気となって発散される現象です。
葉から水分が外に出されれば出されるほど、根から吸収される水分の量が多くなります。
このことからカルシウム欠乏の2つ目の原因は蒸散の停滞だと考えられます。

それではなぜ、蒸散が停滞してしまうのでしょうか。
蒸散の仕組みを考えてみます。
蒸散は葉の裏側にある気孔という小さな穴が開くことによって行われますが
環境の湿度が高すぎたり低すぎたりすると、この気孔が開かないため蒸散が滞ってしまうのです。
適正な湿度は温度によって異なります。
例えば温度が20℃の場合の適正な湿度は60~80%と考えられています。
また高温多湿の生育環境の場合、生育速度は早めることができますが、生育速度にカルシウムの供給が追い付かず、脆弱な新しい葉ができ、比較的傷みやすい葉であるため、チップバーンのリスクを高める可能性があります。

以上のことから、完全閉鎖型植物工場で発生するチップバーンの原因としては
温度、湿度が適正な範囲から外れていることが考えられます。
露地栽培や、太陽光利用型の植物工場では、天候によって生育環境が大きく変動するため
これ以外の原因も複数考えられますが、完全閉鎖型植物工場では
生育環境がある程度一定になりますので、チップバーン発生原因もある程度限定されます。

チップバーンのメカニズム

チップバーンのメカニズムは以下の通りになります。
まずカルシウム不足の植物は頑丈な細胞壁を作ることがきでず、強度の弱い細胞壁ができてしまいます。
チップバーンが葉先や新芽に多いのは、新しく柔らかい細胞壁であるからです。
また植物内には各細胞内を縫って張り巡らされた乳管細胞というものが存在しており、
高い圧力をかけて乳液を循環させています。
その圧力に脆弱な細胞壁が絶えることができず、乳管細胞は破裂をしてしまいます。
乳液が細胞の外に出ることで、赤みある色・褐変を起こします。
切ったレタスを保存すると切り口からピンク色のような色に変色するのは、同じく乳管細胞が破壊され乳液が流れ出した為に変色をしています。

このようにチップバーンはカルシウム不足により、乳管細胞が破壊され乳液が細胞外が流れ出てくる為に、葉の先が変色が生じてしまいます。

チップバーンの対策

上記のように、チップバーン発生原因は温度、湿度が適正な範囲から外れていることが原因だと考えられます。
温度湿度を適正範囲にコントロールするために空調機や除湿機の設定を再確認してみましょう。
温度が20~25℃の場合、適正な湿度は70~80%になります。
このとき、部屋の中の温湿度を測定するのではなくて、野菜の直近を測定するようにしましょう。
野菜が密集しているところは、湿度の高くなる傾向があります。
生育を速めすぎない為にも温湿度管理は大変重要になります。
また工場内が広くなると測定位置によって温湿度が大きくことなることがあります。
満遍なく送風を行い温湿度管理を行いたい場合は、植物工場の専門家に相談することが重要になります。

また土壌内・循環液の栄養バランスにも気を付ける必要があります。
常に安定したバランスに整える為には、溶液を自動注入するポンプの使用もお勧めです。

まとめ

チップバーンの原因と対策はご理解いただけたでしょうか。
チップバーンは植物工場だけでなく、露地栽培も含むどこにでも生じる現象です。
ですが、植物工場は高品質が求められることが多く、チップバーンの影響は露地野菜よりも大きくなります。

チップバーンの原因も多面的な検証が必要となりますので、専門家に相談することをお勧め致します。