植物工場のトラブル事例 ―葉菜類のチップバーン―

植物工場で葉菜類を栽培していると、チップバーンと呼ばれる、葉の先端が焼け焦げたような現象が発生することがあります。
今回はその原因と対策についてまとめました。

   

野菜の葉の先端が焦げる?

チップバーンとは

完全閉鎖型植物工場で葉菜類を栽培したときに、
葉の先端が黒く、焦げたような症状がでる場合があります。
黒く褐変し、枯死した状態なので商品としての価値に悪影響を与えます。
特に植物工場の野菜は虫食いもなく、きれいで高品質なものが生産できる施設なので
チップバーンへが発生することは、工場の運営者としてもとても悩ましいものだと思います。

チップバーン発生の原因

チップバーンの発生には複数の要素がかかわっており、工場によって原因が異なるため一概に言えませんが
今回は、よくあるケースについてまとめたいと思います。

一般的にチップバーンと呼ばれていますが、学術名称は「カルシウム欠乏症」です。この名称が表している通り、
チップバーンが発生する直接の原因はカルシウム分の不足だと考えられています。


野菜に供給する肥料のなかにカルシウム分が少なければ当然カルシウム欠乏症が発生しますが
供給される肥料成分としてカルシウムが不足している事例はほとんどありません。
それではなぜカルシウム欠乏が発生するのでしょうか。
なんらかの理由で、カルシウムが野菜にうまく吸収されていないことになります。

カルシウムが野菜に吸収される機構を考えてみます。
カルシウム分は水分と同じように根から吸収されます。
水分の吸収が早ければカルシウムも多く供給され、水分の吸収が遅くなれば、カルシウムの供給も少なくなります。
根から水分が吸収される速度は蒸散速度の影響を受けます。
蒸散とは葉の気孔から水分が水蒸気となって発散される現象です。
葉から水分が外に出されれば出されるほど、根から吸収される水分の量が多くなります。
このことから、カルシウム欠乏の原因は蒸散の停滞だと考えられます。

それではなぜ、蒸散が停滞してしまうのでしょうか。
蒸散の仕組みを考えてみます。
蒸散は葉の裏側にある気孔という小さな穴が開くことによって行われますが
環境の湿度が高すぎたり低すぎたりすると、この気孔が開かないため蒸散が滞ってしまうのです。
適正な湿度は温度によって異なります。
例えば温度が20℃の場合の適正な湿度は60~80%と考えられています。

以上のことから、完全閉鎖型植物工場で発生するチップバーンの原因としては
温度、湿度が適正な範囲から外れていることが考えられます。
露地栽培や、太陽光利用型の植物工場では、天候によって生育環境が大きく変動するため
これ以外の原因も複数考えられますが、完全閉鎖型植物工場では
生育環境がある程度一定になりますので、チップバーン発生原因もある程度限定されます。


チップバーンの対策

上記のように、チップバーン発生原因は温度、湿度が適正な範囲から外れていることが原因だと考えられます。
温度湿度を適正範囲にコントロールするために空調機や除湿機の設定を再確認してみましょう。
温度が20~25℃の場合、適正な湿度は70~80%になります。
このとき、部屋の中の温湿度を測定するのではなくて、野菜の直近を測定するようにしましょう。
野菜が密集しているところは、湿度の高くなる傾向があります。